(台本)
北海道の廃墟でガジェットを紹介していた僕。
お金が無くなり、森で自給自足生活を送っていたが、なぜか知らない人が僕に家をくれたのだった。
タイトル「森に住んだら、知らない人が、家をくれた」
北海道でガジェット系YouTuberをしていたかずひろ。
ガジェットを買いすぎて、みるみる貯金が減り、このままだと家賃が払えなくなると感じた僕は、北海道から千葉に移住することにした。
50万円で誰も住んでいない森を買い、そこで自給自足をすることにした。
ゴミを集めて家を作り、なんとか雨をしのげる環境を作って、とりあえず生き残ることができた。
そんな中、出会ったのがねこすけだった。
ねこすけは妊娠していて、助けを求めているようだった。
でも、助けてほしいのは僕の方だ。
毎日そのへんに生えている草やヘビを捕まえて、食べ物を確保するだけで大変だった。
それなのに、猫と子猫の世話をするなんて僕にはできない…
そんな時、リスナーが言ってくれた。「猫の餌くらいなら私が出すよ!」
彼女は「隊長」というハンドルネームの僕のリスナーだ。
それから、隊長は毎月のように猫の餌を送ってくれるようになった。
たまに獲物が取れないときは、僕も少しだけ拝借してるが、それはまだ誰にも言っていない。
そうして僕とねこすけそして、子どものとらのすけの1人と2匹の森生活が始まった。
毎日野菜を作ったり、チャボを捕まえたり、やることは盛りだくさん。
しかし、そんな中、大きな問題が発生した。
嫌がらせだ。
僕は、日々の生活をYouTubeの生放送にて発信している。
ほとんどのリスナーは良い人ばかりで、楽しくおしゃべりしているのだが、中には、殺害予告や嫌がらせで警察へ通報してくる人もいる。
ここ最近は、警察が月に何回も来るようになった。
毎回なにも問題がないことを確認して帰っていくのに、警察は通報があったら来なければいけないそうだ。
でも、これよりも恐ろしい出来事が起こるのではないかと僕は恐怖を感じている。
「毒餌」
2014年、大田区に29匹もの猫が不審な死を遂げていることがニュースとなった。
「犯人は仕事のストレスでやった」と供述しており、このような犯行が僕の森でも行われるのではないかと、恐怖を感じていた。
https://www.youtube.com/watch?v=NWUl4qa20ww
https://www.sankei.com/article/20141001-HVB2LCJW5BKH5BMZP7FEBEL2ZI/
家の中で飼えばいいのではないか?
はじめ僕はそう思った。
しかし、そうそうに諦めた。
僕の家は、猫2匹とともに暮らすにはあまりにも狭すぎたのだった。
たったの6畳しかない小さな家。
家と呼ぶには狭すぎるため、リスナーは僕の家のことを小屋と呼んだ。
なら、家を広くするか?
いや、無理だ。
お金がない。
この小さな家を作るだけでもうお金は尽きた…。
もちろんお金がないから引っ越すこともできない。
完全に積んだ。
終わった。
もし、猫たちが殺されたら、僕もこの世界を殺して僕も死ぬ。
僕と猫を救ってくれなかったこの世を恨み、この世界を殺して僕も死ぬ。
これが僕の人生の終わり方か…、と考えていたら、リスナーから1件のDMが届いた。
「家を手放そうかと思っています。もし必要ならかずひろさんの生活に役立てられませんか?」
ん?何を言ってるんだろう?
家を買うお金なんてもっていないので、僕は深く考えずに返信した。
「えーっと、申し訳ないですが、家を買えるほどお金に余裕はありませんので、申し訳ないですが、買うことはできません。すいません。」
歴の浅いリスナーなのかな?森で自給自足してるけど、本当はお金があると思ってたんだろうな。
そう思っていたら、直ぐに返信が来た。
「お金は頂きません。必要ならお譲りします」
え?
え?
お金は頂きません。
家をくれる?
そんな事があるのか?
いや、え?詐欺なのか?家をくれる詐欺?なんだそれは…
不審に思っていると、向こうから更に返信が来た
「住所はこちらです。興味があれば見に来てください。千葉県〇〇市〇〇…」
見に行ける距離だ…。
僕はすぐに返信し、実際に見に行ってみることにした。
見に行くだけはタダ。もしかすると変な宗教に勧誘されるかもしれないけど、その時は帰ればいいだけ。
詐欺だったとしても、僕にはお金がない。
それがいいことなのか、悪いことなのか、深くは考えないことにした。
現地につくと、住宅街の中にその家を見つけた。
家もボロボロではない、まだまだ問題なく住めそうだ。
庭も広くて駐車場もある。
こんな家を僕にくれるだなんて、どんな方だろうか。そう考えながら僕は呼び鈴を鳴らした。
「ピンポーン、こんにちはーご連絡頂いたかずひろです」
そこに出てきたのは、70代の女性だった。
優しそうな笑顔が印象的な方だった。
どうぞどうぞと家の中に通され、そのまま家の中を案内された。
はっきり言って、とてもいい家だ。
築は50年を超えているそうだが、きれいに掃除が行き届いた和風の家である。
僕は単刀直入に聞くことにした。
「本当にこの家を僕にくれるのですか?」
するとこの方はこういった。
「はい、お譲りします。お金は一切頂きません。」
少し考えて僕はこう聞き返した。
「ここは確かに田舎ですが、家はまだ住める状態ですし、売ろうと思えば売れる家だと思いますよ。なぜ僕に譲っていただけるのか、よければ教えていただけますか?」
すると、少し間を置いて話し始めた。
「この家は、結婚をしたときに、中古で買った家なんです。
子どもも生まれてその時住んでいたアパートが手狭になったので、大きめな家を買うことにしたんです。
でも、新築を建てられるほどのお金はなかったので、この家を選んだんです。
息子は18歳になるまでこの家に住んでいました。
でも、そのまま息子が帰って来ることはありませんでした。
行方不明です。」
行方不明、その言葉を聞いて僕はひたすらだまり続けることしかできなかった。
何十秒か家の軋む音だけが響く中、再び話し始めた。
「息子はまだどこかで生きてるかもしれない。そう思い続けて、私はもう70歳になりました。
もし、息子が生きていたとしたら、あなたくらいの年齢になってるだろうなと思って、あなたになら、この家を託せそうだと感じたんです。
僕でいいのだろうか。
息子さんとの思い出がたくさん詰まった、そして、もし息子さんが生きていたとしたら、帰るべきこの家を僕が引き継いでもいいのだろうか。
頭の中で、家が手に入る絶好の機会と思いながらも、僕にはふさわしくないという葛藤が入り交じる。
「息子が見つかったんです。」
えっ…
「安心してください。息子はこの家では亡くなっていません。なので、事故物件というわけではありません」
僕は言葉が出なかった。
今まで体験したことのない重荷が僕の肩にのしかかっているようだった。
その時、この方が突然涙を流しながら頭を下げた。
「お願いです。この家を貰ってください。この家は私と息子の思い出が詰まった家です。でも、これ以上この家を守り続ける気力が私にはありません。
息子の生きる予定だった時間を変わりにこの家で過ごしてほしいんです。」
そういうことか。
お母さんは、35年間もの間、息子の帰りを待ち続けたのだ。
そして、息子は帰ってきた…還らぬ人となって。
これ以上の重荷はもう背負えないとお母さん自身も感じたのだろう。
そして、僕はYouTubeで日々の生活を配信している。
僕がこの家に住めば、お母さんはいつでもこの家を遠くから見守ることができる。
僕は決めた。
この家を僕が継ぐと。
そのことを告げると、お母さんは、泣いて喜んだ。
この家に住み始めたからしばらくが経った。
とても住心地が良い家だが、僕はこの家に住み始めて思ったことがある。
それは…掃除が大変。
猫を飼っているせいで、家中が毛だらけなのである。
森で暮らしていたときは、部屋が狭いので掃除は1分で終わった。
この家は僕にとって広すぎた。
の時、ふとテレビでみた番組を思い出した。
【ロボット掃除機ご紹介パート】
「おきゃくさまぁ~ん!これ一台あれば、家中をくまなくお掃除してくれるんです!さらに、今回の新モデルには、水拭き機能も搭載しました!それだけでなく、汚れた雑巾を自動で洗ってくれる最先端の機能が搭載です!」
「すご~い!でもお高いんでしょ~」
「なんと今だけ業界最安値の」
ロボット掃除機か…。
実は今、少しだけお金に余裕がある。
この家に引っ越してきてから、使わなくなった森を売りに出したところ、思いの外高値で売れたのだ。
昨今のキャンプブームの影響なのか、小さな小屋とキャンプができる森がセットになっていたため、プライベートキャンプ場を探していた方が購入してくれたのだった。
その御蔭で、自由に使えるお金がドサッと入ってきた。
もちろん、使おうと思えば一瞬で無くなる程度ではあるが、質素な生活をしている僕にとっては大金である。
このお金でロボット掃除機を買うのもありかもしれない。
お母さんから受け継いだこの家をきれいに保つのも僕の努めだ。
と自分に言い聞かせてはいるが、本心は昔からロボット掃除機に興味があったのだった。
男というのはロボットが大好きなのだ。
ロボット掃除機はすごくよく働く。
昔、僕のお母さんが濡れた新聞紙を床に撒いていたが、そんな事する必要もない。
全部全自動でやってくれる。
すごい時代になったもんだ。
そして、今住んでいるこの家より、このロボット掃除機の方が値段が高い。
でも、ねこのねこすけも虎之介も元は野良猫、お金はかかってない。
僕は思った。
金額は重要じゃない。
大事なのは、本当に必要としている人に必要なものが行き届くことだってね。
Fin
コメント